「陛下、フレーゲル男爵から書状が届いております」
「フレーゲル?ああ、あの逆賊ブラウンシュヴァイクの甥か」
自室で執政作業に励んでいたラインハルトの元に、ブラウンシュヴァイクの甥から書状が届いた。その書状をラインハルトは出来の悪い生徒の点数評価をするかのように、淡々と読み始めた。
「…兼ねてから叔父上は、自分に何かあった時は私を後継者として領土を継承するよう言われていた。よって先の事件で陛下が没収為さられた土地は、私が正当に引き継ぐ権利を有するものである、か…。フッ、余が就任する前は散々余を”金髪の小僧”呼ばわりしていた割には、随分と改まった態度だな」
フレーゲルの嘗ての態度から、明かに己の利権を得たいが為に忠誠心の欠片もなく、自分に屈した”フリ”をしているのだ。態度の取り方からして明らかにブラウンシュヴァイクの血筋の者なのだなと、ラインハルトは皮肉を浮かべて文面に目を通し続けた。
「…もし私の嘆願をお聞き願えないならば力尽くで叔父上の領土をお返しして行く次第です…。つまりは金髪の小僧に領土を取られぬ位ならば自ら取り戻すまでだという訳か…。ようやく本性が表れたな…」
やはり、フレーゲルに自分に忠誠する気持ちは微塵もない。もっとも、自分に敬意を抱く気もない者の忠誠など、こちらから願い下げだとラインハルトは思った。
「それで陛下、どう為さるおつもりです?」
「無論、フレーゲルが力尽くで取られた領土を取り戻すというのなら、それに応えてやるまでだ」
フレーゲルの手紙をラインハルトに手渡した補佐官のシュトライトの質問に、ラインハルトはフレーゲルの嘆願を聞き入れる旨を発した。但し、力尽くで奪うという行為に関して…。
「シュトライト、これから逆賊ブラウンシュヴァイクの”自称”後継者を掃討しに行く。玉座の間に重臣達を集めよ」
「はっ」
懇願は聞き入れるものの公文書的立場からはあくまで逆賊討伐だという見解を立てた後、ラインハルトは重臣達を玉座の間に呼び寄せるように言った。数十分後、各々の重臣達が玉座の間へと集まって来た。
「さて、これから”逆賊の甥”掃討作戦に関する作戦概要を話す。まずは、フレーゲル如きに従う兵などたかが知れてるが、万が一を想定し、予め先鋒偵察隊を出す。次に敵の配置図や戦力数が分かり次第、余とミッタマイヤー、ロイエンタールを中心とした主力3,000で攻め込む。そして敵との兵力差が激しい場合を想定し、メルカッツ、ケンプを中心とした後方兵力2,000を配置しておく。以上の兵を持ち、今作戦を開始する。また、行方知れずのブラウンシュヴァイクの捜索も怠る事なく行うように。これを機に、ブラウンシュヴァイクに関係する全ての勢力を根絶やしにするのだ!」
『はっ!』
今回のフレーゲルの行動を、ラインハルトは寧ろ好機と思っていた。ブラウンシュヴァイクと深い関係を持つ者が自分に反感の意を示し、場合によっては武力に訴えると言って来た。これにより、他のブラウンシュヴァイクに関する者共も信頼に値せぬとし、追放する事が出来る。フレーゲルの奴も大人しくしていれば、ブラウンシュヴァイクを発見し反乱罪で処刑した後、態度によっては領地を任せても良かったものを…。わざわざ自ら領土を入らぬと言って来てるようなものなのだから、フレーゲルもご苦労な事だ。そうラインハルトは、愚かな選択を取り自ら甥と同じ破滅の道を進もうとするフレーゲルを、心の中で嘲笑した。
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SaGa−8「”逆賊の甥”掃討作戦」
「陛下。偵察隊からの報告に寄りますと、フレーゲル軍の前衛はオフレッサー傭兵軍団が務めてるとの事です!」
「何だと!あの野蛮人が率いるならず者のが集団がか!?」
偵察隊の報告がラインハルトの本陣に入り、辺りには動揺が湧いた。オフレッサー傭兵軍団はローエングラムからリヒテンラーデに掛けて行動する傭兵集団であり、獰猛で凶暴な集団だが紛れもなく屈強な集団であるというのが一般的な評価である。その名はユーステルムの薔薇の騎士連隊に引けを取らないくらい知れ渡って行った。もっとも、組織的な運営力などを含めた総合評価では、薔薇の騎士連隊には遥かに及ばないというのが世間一般の見解ではあるが…。
「成程、金であの野蛮人共を手名付けたか…」
それは同時に、フレーゲルに忠誠心で付き従っている者が著しく少ない事の表れであると、ラインハルトは思った。確かに金で兵力を雇うのは有効な手段ではある。下手な忠誠心よりは金での契約の方が有効な場合があるし、自分自身トルネードのユキトを雇ったという前例がある。しかし、逆にそれは相手が傭兵集団という事もあり、頭であるオフレッサーを叩けば自ずと統制が崩れる可能性が高いという脆弱な面もある。所詮金で雇われた忠誠心の皆無な集団、自分の命が何より大切に決まっている。この戦い、犠牲が出る事はあっても我々が負ける筈はないとラインハルトは確信した。
「よし!陣形は中央突破の陣!前衛は屈強の集団との噂だが、所詮は金で雇われた集団、頭を取れば烏合の衆に過ぎぬ。故に傭兵集団の頭であるオフレッサーの首を取る事を何よりも優先せよ!」
『はっ!』
ラインハルトからの作戦命令が重臣達に伝い渡り、こうして戦の狼煙は上がった。
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(お兄様…大丈夫かしら…)
その頃サユリは、新無憂宮の庭園で兄のラインハルトの安否を気遣っていた。この間のような計画的で大規模な反乱ではないのだからそれ程心配するものではないと理解はしていたが、何とない胸の内の不安を拭い去ることは出来なかった。
「サユリ様、このようなお所にいらっしゃったのですか」
「ジュンさん…。ええ、お兄様が心配でいてもいられなくて、少し外の空気を吸おうと思いまして…」
「気持ちは分からないでもないですが、万が一を考え宮殿内にお戻り下さい…。でないとその、俺の立場が…」
プリンセスガードという立場上、ジュンはサユリに宮殿内に戻るとしか言いようがなかった。しかし、兄の安否を気遣う余り、外の空気を吸って気を落ち着かせたいというのも分からなくはなかった。
「分かりました。ただ、もう少しだけここに居させて下さい…」
「サユリ様がそう仰るなら…」
少しくらいならば大丈夫だと思い、ジュンはサユリに気を使うつもりでその足で宮殿内へと戻って行った。
(はぁ…しかし、やっぱ性に合わないな…)
宮殿内に戻る道程、ジュンはそんな溜息を付きながらトボトボと歩いていた。長らく山に囲まれたシノンで自由奔放な生活を送っていたジュンにとって、宮殿内の規律正しい生活は堪えられるものではなかった。こんな生活を続けるくらいなら、旅に出たユウイチ達と合流するのがいいに決まっていると、ジュンは思い続けていた。
「キャー!」
「この声は…サユリ様!」
突如聞えて来たサユリの声に、ジュンは急いで庭園へと向かった。しかし急いで庭園へと向かったものの、その場には既にサユリの姿はなかった…。
「くっ…」
自分が少し目を離したばかりに…。そう悔みながらもサユリ様は何者かにさらわれたに違いないと思い、ジュンは何か手掛かりがないかと辺りを探った。
「ん?これは……」
隈なく辺りを探すと、巨大な羽根が散らばっているのが目に止まった。この羽根から察するに、サユリ様は巨大な鳥にさらわれたのだとジュンは思った。
(しかし何で巨大な鳥になんか…)
偶然にしては出来過ぎていると思い、ひょっとしたらブラウンシュヴァイクの陰謀ではないかとも思った。しかしこの状況証拠だけでは、さらわれた可能性が高いと判断するのが精一杯である。そう思い、とにかくこの事を宮殿警護隊隊長のケスラーに伝えるのが今すべき事だと思い、ジュンは駆け足で宮殿内へと戻って行った。
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「報告!敵前衛隊の中央のオフレッサーの猛攻により、我が軍が押されつつあります!!」
「そうか…。やはり噂されるだけの事はあるな、下級から中堅クラスの兵ではオフレッサーの首は取れぬか…」
前線の兵からのラインハルトへの報告は、あまり芳しいものではなかった。オフレッサーの猛攻とそれに鼓舞され激昂した他傭兵軍団の力により、自軍の死傷者は既に700人を超えているとの報告だった。
「よし!これ以上の犠牲を出さぬよう、個々の戦闘能力の高いミッタマイヤー、ロイエンタール両将軍の協力によりオフレッサーの首を取るよう伝達せよ!また、同時に後方のメルカッツ、ケンプにも兵を進めるよう伝達せよ!!」
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「グワッ!」
「ギャァァァ〜!!」
「ハァーハッハッハッ…貴様等雑魚ではこのオフレッサーの首は取れぬわ!この俺を仕留めたかったなら将軍クラスの人間を出してくるのだな!!」
その頃前線ではオフレッサーの猛攻により、ラインハルト軍の兵士等が次々と屍へと姿を変えていた。その猛攻にラインハルト軍の兵士等の戦意は下がる一方で、ジリジリと後退を余儀なくされていた。
「野蛮人め、これ以上貴様の好きにはさせぬぞ!陛下御直々のご命令の元、貴様の首はこの私、ウォルフガング=ミッターマイヤーが取る!!」
そこへラインハルトの勅命を受けたミッターマイヤーが、颯爽と登場した。
「ほう、誰かと思えばかの疾風ウォルフか…。良かろう、相手にとって不足はない!貴様等を屍へと変え、その勢いで金髪の小僧めの首を取ってくれるわ!」
「フン、騒いでいられるのも今の内だ。行くぞ!はああ〜疾風剣!!」
疾風の二つ名に恥じんばかりにと剣技疾風剣を操り、素早い動きでミッタマイヤーが斬りかかった。
「流石に疾風の二つ名で呼ばれているだけの事はあるな…。だが、貴様如きがこの俺の首と取れるなどと思うな!」
「くっ…」
しかし強靭なオフレッサーに押され、ミッタマイヤーは剣と剣が交差する体勢で、じわじわと押されるばかりであった。
「ガァハッハッハッ…このまま力尽くで叩きのめしてくれるわ〜!」
「くぅっ!」
力押しで迫るオフレッサーの猛攻に堪えられなくなり、ミッタマイヤーは手に抱えていた剣を宙高く放り投げてしまった。
「もらったぁ〜!」
「今だ、ロイエンタール!!」
「おう!地走り!!」
「むっ…!?」
放り出された剣を拾いに行こうとするミッターマイヤーに透かさず斬りかかろうと高く剣を空に掲げるオフレッサー。そこに好機とばかりに、ロイエンタールが大剣技地走りを喰らわせた!
「ぐわぁぁぁ〜!」
剣を高く掲げる事により胴体ががら空きになったオフレッサーは地走りの直撃を両足に喰らい、体勢を崩し始めた。
「とどめは二人で行くぞ、ミッタマイヤー!」
「おう!」
『ツインビーラッシュ!!』
剣を拾い上げたミッタマイヤーがまずは斬りかかり、すかさずロイエンタールがその後方から斬りかかった!
「ズシャ!ドカッ!!」
ミッタマイヤーの一撃はオフレッサーの左肩から右脇腹に掛けてを斬り裂き、続くロイエンタールの一撃はオフレッサーの胴体を頭から真っ二つに切り裂いた。隙のない二人の攻撃により、オフレッサーは断末魔を上げる間もなく大量の血しぶきと共にその生命活動に終止符を打った…。
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「報告〜!ミッタマイヤー、ロイエンタール両将軍の奇襲により、オフレッサー傭兵隊長討死!それにより指揮系統を失った傭兵軍団は四散、現在、ラインハルト軍が怒涛の勢いで本陣目掛けて進軍致しております!!」
「何だと!」
兵士の報告を聞いたフレーゲルは驚くと共に体全体から怒りが込上げて来た。大将の首が取られたくらいなんだ、命を賭してまで貰った金の分を働かぬかと、その怒りを四散した傭兵達に向けた。
「ひえ〜もうダメだ〜」
オフレッサーの戦死、それによる傭兵軍団の崩壊により、フレーゲル軍の兵士等は一気に戦意を失い、我先にと逃亡を開始した。
「あっ、こら敵を前に逃亡するなどこの恥知らず等が!」
フレーゲルは必死で兵士等の逃亡を止めようとするが、さしたるカリスマを持ち合わせていないフレーゲルを、命を賭けてまでも守り通そうと思う兵士は皆無に等しかった。
「ええいっ、叔父上からの報告はまだか!」
多くの兵士が逃げ行く中、フレーゲルは一人歯を噛み締めた。
もともと今回の作戦は、逃亡中のブラウンシュヴァイクとの共謀であった。フレーゲルの元を訪れたブラウンシュヴァイクの使いの者の話はこうであった。まずはフレーゲルの部隊が陽動を兼ねてラインハルト軍を引き寄せる。それにより隙が生じた新無憂宮からサユリを拉致する。そしてサユリを拉致したのをこちらから大々的にラインハルトの陣営に流し、それにより混乱が生じたラインハルト軍に金で雇ったオフレッサー傭兵軍団がトドメを指す。
しかしサユリの拉致には成功したものの、その情報は未だフレーゲルの元には伝わっておらず、更には最後の要になる筈であったオフレッサー傭兵軍団が瓦解した事により、作戦はほぼ失敗したと言っても過言ではなかった。
「ええ〜い、こうなれば一騎討ちだ〜。出て来〜い、金髪の小僧〜!!」
半ば狂気じみてフレーゲルは叫んだ。この状況では正攻法では勝ち目がない。ならば一か八かの大将同士の一騎討ちに臨むしかないと。
「大声を立てずとも聞えている。良かろう、貴様の望み通り一騎討ちで片を付けようではないか!」
止める兵士の声に耳を傾けず、ラインハルトはフレーゲルとの一騎討ちに望み、軍勢の中から姿を表した。
「よくぞ我が願いに応えてくれた。それだけは素直に礼を言おう。だが、私との一騎討ちに望んだ事を後悔しながら地に果てるのだな!」
「下らん戯言だ。その言葉、そっくりそのまま卿に返そう」
「何を!言っておくが、手加減はせんぞ!全力を尽くして貴様を葬り去ってくれる、金髪の小僧〜!!」
鬼気迫った顔でフレーゲルがラインハルトに向って行った事により、一騎討ちは開始された。
「どうしたどうした〜。所詮は新無憂宮の産湯に浸かっている小僧か〜!!」
激しく白銀の剣で斬りかかって来るフレーゲルに対し、ラインハルトは腰に掲げていたエストックで一つの無駄もない動きで対処し続けた。
「下らんな。技の一つも使えずにただ剣を振り翳すだけか」
「そういう貴様こそ反撃一つ出来ず、攻撃を受け流すのが精一杯ではないか〜」
防戦一方のラインハルトに対し、自分は優位に立っているとフレーゲルは思い込み、狂ったように更に激しくラインハルトに斬りかかった。
「もらったぁ〜!」
興奮が最高潮に達したフレーゲルはまるで自分の勝利がこれで決まるかのように、大振りに剣を振り翳した。
「マインドステア!」
その隙に乗じ、ラインハルトはフレーゲルの眼に焼き付かせるかのようにエストックの先を回転させた。
「ふっ、ようやく攻撃に転じたか…。ん…な、なんだこれは〜〜!?」
高速回転するエストックの切っ先はフレーゲルの脳に支障を与え、フレーゲルは一種の混乱状態に陥った。
「さて、では卿の態度を尊重し、余も全力を尽くして卿を葬り去ってくれよう…」
そう言い終えると、ラインハルトは未だ混乱状態の渦中にあるフレーゲルを前に、静かに術の詠唱を始めた。
「大地を照らす太陽よ、我に立ちふさがりし者に天から下る裁きの鉄槌を与えん…。スターフィクサー!!」
ラインハルトが太陽術スターフィクサーを唱えると、フレーゲルの周りに光が集中し始めた。その光は熱き柱となり、天に巻き上がる形でフレーゲルの体を焼き尽くした。
「ぬぐあぁぁぁ〜!!」
光の柱は容赦なくフレーゲルの体を襲った。フレーゲルは最期まで精神の混乱から醒める事なく、黒焦げの物体へと姿を変えて行った…。
こうしてラインハルト側に死者237名、重軽傷者789名を出した”逆賊の甥”掃討作戦は、対するフレーゲル軍の総大将の死によって幕を閉じた。
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「この洞窟が怪しそうだな…」
一方その頃ジュンは、さらわれたサユリの捜索に身を投じていた。あの後真っ先に事の一部始終を伝えたケスラーの働きにより、サユリ誘拐の方は宮殿警護隊内にしか伝わらなかった。事を大きくせずに宮殿警護隊のみで捜索を行うとのケスラーの判断であったが、幸いにもそれがフレーゲル軍の敗北へと繋がった。
無論、サユリがさらわれた事に自身の責任を感じていたジュンも捜索隊に加わり、偶然発見した洞窟に足を踏み入れた所だった。
「ん?あれは蝋燭の光か…」
洞窟の中を暫く歩くと、光が見えて来た。洞窟自体は人の手が加えられていない自然窟のようであるが、明りが見えたという事は人が使用している可能性は高い。そう思いつつ、ジュンは慎重に光の方へ歩いて行った。
「ほう、私以外にも捕まっている人がおったとはな…」
「!!」
光が照っている場所に辿り着くと、突如声が聞えて来た。ジュンは驚いて声の方に咄嗟に腰に掲げていたブロードソードを抜いた。すると、そこには異国の格好をした男がいた。
「誰だアンタは…?」
「東国から来たしがない旅の聖王記読みだ。訳あって捕まってしまったのだ」
そうジュンに答えたのは、過日神王教団等に捕らえられた詩人であった。
「ふ〜ん。って事はこの洞窟にサユリ様が捕まっている可能性は高いな…。おいアンタ、何時間か前、誰かがこの洞窟に監禁されに来たか?」
「いや、先程まで眠っておったからな。誰かが来たとまでは分からぬな…」
切羽詰った態度のジュンに、詩人は落ち着いた雰囲気で応えた。その余りの落ち着き様に、ジュンはよく捕まっているってのに眠ったり出来るなと呆れた。
「しかし、そもそも眠っておった私が起き出したのは、何者かの足音によってだ。故に何者かがこの洞窟に出入りしていたのは間違いないな」
「そうか。サンキュー!」
そう言いながらジュンは詩人に軽く礼をし、洞窟の更に奥へと向かって行った。
「聖王遺物の次はローエングラム侯の妹君の拉致か…。やれやれ、色々と興味が尽きぬ事ばかり起こりおるな…」
そう呟きながらも、詩人もジュンの後を追い、洞窟の奥へと向かって行った。
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(何とかここから抜け出さなきゃ…)
一方その頃、捕らわれの身となっていたサユリは、自分一人の力で脱出しようとしていた。ジュンの予想通り、サユリは詩人が捕まっていた洞窟の奥へ軟禁されていた。しかし、通路を悪魔系モンスター悪鬼に阻まれ、思うように身動きが取れないでいた。
(いつまでも誰かに助けられてばかりじゃダメ…。自分で何とかしなきゃ……)
そう決心し、サユリは悪鬼に向い術の詠唱を始めた。
「我が体に眠りし熱き魔力よ、真空と交わり形となれ!エアスラッシュ!!」
渾身の力でサユリは朱鳥術エアスラッシュを悪鬼目掛けて飛ばした。
「小娘がぁ〜。大人しくしていれば良かったものの…」
しかしサユリの一撃は致命だとならず、寧ろ悪鬼を怒らせる結果となった。
「くっ…やっぱりこの程度は通じない…」
「ガァァァ!!」
「キャアァァ〜〜!」
いきり立った悪鬼がサユリにぶちかまして来、サユリは思わず目を反らして仰け反った。
「ガキィィィ…!」
「クッ…大丈夫かサユリ様…」
「ジュンさん…」
一瞬ダメかと思った瞬間、急いで駆けついだジュンが悪鬼の攻撃をなぎ払った事により、サユリは一命をとりとめた。
「フン小僧一人増えた所で…。まとめて葬り去ってくれるわ!」
「クッ…流石にコイツはやばそうだ…」
目の前にいる悪鬼は、この前自分がサユリを身を呈して守った怪鳥より強力に思えた。思えばあの怪鳥はトルネードがいたから勝てたようなものだ。果たして自分とサユリ様しかいない状況でこのモンスターに勝つ事が出来るのかと、不安で一杯だった。
「雷殺斬!」
「グワオォォォ〜〜!!」
「えっ…!?」
ジュンとサユリには何が起きたのか分からなかった。目の前にいた悪鬼は、突然稲光に襲われ、次の瞬間には黒焦げの真っ二つに切られた屍に姿を変えていた。
「お二方、無事であるか…?」
「あっ、アンタは…」
真っ二つになった悪鬼の奥にいた人影に、ジュンは驚愕した。そこにはさっきの詩人が長い曲刀を掲げて立っていた。自分があれだけ敵わないと思っていた悪鬼を、まるで野菜を切るかのように寸断するこの男は一体……。
…To Be Continued
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※後書き
お待たせしました〜。前回の更新から一ヶ月余りが経ち、ようやく新しい話を書き上げたという感じです。今回は、前回との間が長かった為、急いで2日で仕上げちゃいました(笑)。
さて、今回は話の3/4近くが銀英伝キャラで展開するという、Kanon、AIRしか知らない人には訳の分からない展開だったかと思います…(苦笑)。まあ、とりあえず原作におけるマスコンバットイベントを二つ同時に消化したという感じでした。結果的には一話キャラになってしまったフレーゲルとオフレッサーですが、原作よりは幾分かマシな死に方だったかと思います(笑)。
それと詩人は今回も正体をあらわしませんでしたが、ついに次回は正体を明かしますので楽しみにしていて下さい。
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